ばけまなび

化学について書きます あとは雑記

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豆腐って何なん? -意外と知らないよね、豆腐ができるメカニズムー

1人の人間として、自分の器の小ささを益々意識します。

まだまだ人間として未熟です。

たかおです。

 

さて今回もまた、私の専門分野からトピックを選んで記事を書きたいと思います。

今回扱う題材は...

豆腐です。

アジアでも似た食品はもちろんありますが、特に日本人にとっては、切っても切り離せない位身近な食材であると言えるでしょう。近年では糖質オフな食材、良質なタンパク源など、健康食材としても注目を集めています*1

 

そんな豆腐、パックから出して手の上に乗せますと、プルプルしていて、非常にみずみずしい ーまさに先日述べたゲルの特徴にそっくりであると言えます。

 

neuechemikalie.hatenablog.com

 

確かに、色々なwebページを見ますと、「豆腐はゲルです」と説明されています。そしてその上で「なぜ豆腐は固まっているのか」「どうやって豆腐が形成されるのか」については大いに関心を集めており、多くの方がこれに関して言及されているようです。

 

しかし、これらの説明は私の疑問を十分に解決するものではなく、むしろ私の疑問を大きくするばかりで、かれこれ一年近く悶々として過ごしていたわけです。

 

ならば自分で書いてしまおうと。

 

今回は先人の方が積み重ねてきた研究成果を参考に、「豆腐ができるメカニズム」を説明していきたいと考えています。

 

流れとしては

  • 豆腐の作り方を説明した上で
  • 各過程と、分子の動きを相関づけることで豆腐ができるメカニズムを説明する

 

ことを考えています。ちょっとした読み物にしては長すぎる気もしますが、適当にかいつまんで読んでくだされば幸いです。*2

 

そりではいきまつ

 

 

豆腐の作り方

豆腐の作り方はざっくり分けて以下の3つの工程に分けられます。

  1. 大豆を長時間(~15時間)水につけてふやかした後、水を加えて大豆を粉砕する。(生豆乳の生成)
  2. 100°Cに加熱してから濾過する。(豆乳とおからに分離する)
  3. 70-80°C程度になった豆乳に凝固剤(にがり)をいれて蒸す。

 

当たり前ですが豆腐には豆乳が必要です*3。細かいテクニックや手法は料理ブログ等を見てほしいですが、今回の説明において必要となる部分はこのようになっています。*4*5*6

もっと簡略化して言うと、

 

生豆乳作る⇒生豆乳を加熱(豆乳にする)⇒にがりを入れる⇒豆腐できた!

 

です。

なるほど(なるほど)

 

 

豆腐形成のダイナミクス

各工程で何が起こっているのかを見る前に、今回豆腐を形作るにあたり、活躍する物質たちの紹介をします。

 

・大豆タンパク質(7S, 11Sなど)

・大豆の油

・イオン(Mg2+, Ca2+などの陽イオン)

 

あと多少のわき役が出てきますが、大事なのはこの3つです。登場人物(?)が一通り分かったところで、各工程で彼らがどういう活躍をするのか見ていきましょう。

 

生豆乳での分子の状態

生豆乳の中で分子は図のような形態をとります。 

 

f:id:NeueChemikalie:20191019174934j:plain

生豆乳中の分子



 

大豆タンパク質のうち7S11Sと呼ばれるものがいて、その多くは大豆中に含まれると結合して粒子を形成しています(>100 nm)。

 

生豆乳を加熱したときの分子の状態 

f:id:NeueChemikalie:20191019173001j:plain

加熱による豆乳中の分子の変化

 

上の図に基づいて、順を追って説明していきます。

 

生豆腐を加熱(65~75℃)すると、大豆たんぱく質が油の球から遊離し始めます。そしてさらに加熱(~90℃)すると離れたたんぱく質たちが集まって「粒子タンパク質」を作ります(~40 nm)*7

 

もう少しだけ詳しく言うと、70 ℃付近で7Sの一部が変性してα-α'サブユニット(図中α、α')β-サブユニット(図中β)、90 ℃付近で11Sが変性してAcidic ペプチド(図中A)Basic ペプチド(図中B)*8となって油滴から離れていくみたいです。7Sから解離したβ-サブユニット(図中β)と、11Sから解離したBasic ペプチド(図中B)の二つが結合した会合体が粒子形成に重要な役割を果たすとのこと。また粒子が大きくなりすぎて沈殿したりしないのは、粒子表面に親水性のα-α'サブユニットがつくかららしいです。(へぇ)

  

また、たんぱく質が離れた後の油滴のことを「オイルボディ」と呼ぶらしいです。このオイルボディは大豆の油の周りに「オレオシン」というたんぱく質が引っ付くことで小さな球の形を保っているようです(図中油滴周りの黒線)。  

 

改めてこの時豆乳がどういうものになっているかを説明すると、

オイルボディと粒子タンパク質(図中青点線下)、

可溶化タンパク質(図中青点線上)

を主な成分とした乳濁分散液

 

になっているわけです。

   

 

にがりを入れた時の分子の状態

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にがりを入れたことによる豆腐の形成

豆腐の安直なイメージとして「豆乳に、にがり入れたら豆腐」みたいなものがあります。それだけこの「にがりを入れる」という操作は豆腐を形作るうえで重要な要素です。それも相まってここではかなり複雑な挙動が起こっています。

 

そもそも「にがり」とは何でしょう?

にがりというのは、要は「塩」の入った液体ー例えば塩化カルシウムであったり、硫酸マグネシウムだったり、Ca2+やMg2+などの「二価の陽イオン」を含んだ液体です。

 

話を豆乳にもどします。

このイオンは豆乳中に入っている「フィチン」と呼ばれるものに結合します。これにより豆乳のpHが下がり粒子タンパク質、可溶化タンパク質の溶解度が下がります。これはたんぱく質表面の電荷が中和されてタンパク質間の反発が減少することで起こります。これによってタンパク質粒子は油滴表面のタンパク質と結合するようになるのです。 

 

そして、十分に時間が経ち、イオンが豆乳中にいきわたると、粒子タンパク質と油滴が結合して出来た粒子同士が結びつき、ネットワークを作ります。先程、粒子タンパク質表面には親水性分子がついていると書きました。この「水と仲が良い部分」がうまくはたらいて、水をかかえこもうとするため、粒子で水を抱え込んだ構造、ネットワークを形成します

 

水を含んだネットワーク....ゲルみたいですね!

 

こうして豆腐ができるメカニズムー豆腐が凝固してプルプルしたものになる理由ーを説明できました。

 

豆腐ってゲルなん?

ここまで当然かのように「豆腐はゲル」みたいだと申し上げてきましたが、ものすごく厳密に区分すると豆腐はゲルではないです。豆腐を英語で言うと「soy curd(ソイカード)」というように、豆腐は「カード」という物質に分類されます。カードとは何か、をものすごくざっくり説明すると、①比較的大きい粒子(コロイド粒子)でできていて②シナリシスを起こす構造体のことを言います。(追記;シナリシス(syneresis, シネレシスと表記するのが一般的か)は網目構造を持った構造体から、液体が漏れ出す現象です。例えば、ヨーグルトなどを放っておくと、水が表面に出てくると思いますが、あれもシナリシスの一種です。)チーズなども乳からできたカードの一種です。従って「水を含んだカード」というのが豆腐を表す言葉としてより厳密であるということができます。

 

 

最後に

長くなってしまいました!

 

当たり前のように食べている豆腐、その生成過程は極めて複雑だし、関与する分子も多いです。ここで扱いきれない内容も多く、一部の人には不満の残る内容になったかもしれませんが、その概要を掴んで会話のネタとかにしていただければ幸いです。

 

豆腐のように、しなやかで清廉な人間になりたいものですね。(唐突)

 

あと、「たかおにこれを教えてほしい」「ここの部分が間違っている」みたいな意見があれば、コメントに書いていただけると嬉しいです。誰でもブログにコメントできるように設定してあります。


 

では

 

 

 

 

 

 

参考文献

この記事は以下の参考文献を基に私がまとめたものとなっている。

 

大豆から豆乳 ・豆腐が生成する機構とそれに影響を与える諸因子

https://core.ac.uk/download/pdf/144248469.pdf

 

豆腐および豆乳のための豆乳コロイドの生成

https://www.jstage.jst.go.jp/article/nskkk/64/4/64_220/_pdf/-char/ja

 

大豆タンパク質の加工特性

https://www.jstage.jst.go.jp/article/cookeryscience1995/40/1/40_37/_pdf

 

非常に興味深いので、時間がある時に是非読んでいただきたい。少なくとも私の書いた文章よりわかりやすい。

 

余談: 世の中のテキトーな言説

一方でインターネットに出回っている解説記事でこのような解説を書いているものはほとんどない。参考文献もなく、「思い込み」や「勘違い」で書いた記事さえ散見される。私の書いたこの記事も含めて、「本当にそうなのか」についてはよく確認した方が良い。

*1:出典なし。嘘である様ならコメントいただきたい

*2:非常に悔しいが私の理解不足のため「何故そうなるのか」という点については詰め切れていない部分が多い。もし補足等があればコメントなどで参考文献なども含めてご教授願いたい。

*3:豆乳を投入

*4:もちろん絹ごし豆腐や木綿豆腐など、豆腐の種類によって多少工程に差があります。

*5:豆乳とおからを分離するタイミング、加熱してからおから分離なのか分離してから加熱なのかで、豆腐の性質が結構変わってくるらしい。どっちの製法もあるらしいが今回は一般的そうな方を書いた。

*6:あとどうでもいいけど飲用豆乳と豆腐用豆乳だと製法が違うらしい。気になる人は調べてほしい。

*7:粒子の凝集メカニズムについては書こうか迷った。流れには影響しないので後々加筆するかもしれない

*8:サブユニットは、たんぱく質複合体を構成する単一ポリペプチド鎖 ここでは「元のやつからバラバラになって出てきたタンパク質と思っていただきたい