ばけまなび

化学について書きます あとは雑記

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Gough-Joule効果について -ゴムを唇に当ててみると?-

どうもたかおです。

 

最近修論発表に対するプレッシャーに耐えきれないというのもあるので、あまり複雑でなくて,かつ私が好きな話をしたいと思います。

 

 

取り扱う題材は「Gough-Joule効果*1」についてです。この名前は1804年にGough*2という方が現象として確認し、1859年にJoule*3という方が理論的に説明したことに由来します。これはゴム材料について一般的な現象としてよく知られています。

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わざとダサいサムネ作ってると思うじゃないですか...本気です

百聞は一見に如かず(実験)

みなさんの手元に輪ゴムがあればそれを手にしてみてください。なければ頭の中で想像してみてください。そして

  1. 輪ゴムを唇に当ててみてください。(おそらくは室温と同じで熱くも冷たくも感じないはずです。)それから、
  2. 輪ゴムを勢いよく長めに引き伸ばしてから、すぐに輪ゴムの中心を唇に当ててみてください。

どのような変化が起きた(と考えられる)でしょうか?

実際は、ゴムの温度が上昇しています。唇にほんのりと熱を感じられた人もいるかもしれません。しかしその変化は「5倍に伸ばして1℃上がる」といったほんのわずかであるので、ほとんどの人はその違いにはっきりと気づけないのではないかなと思います。

 

(昔私もやったことがあるのですが、伸ばしたゴムから手を放して鼻の頭を思いっきりバチーンとやってしまい、熱を感じるどころではありませんでした。) 

この現象の歴史

この事実を、今言ったような実験を通して定性的に法則化したのがGoughです。Goughは盲目の科学者でした。しかし唇が熱を感じやすいことを生かして、その微妙な違いを鋭敏に感じ取ったのです。しかもGoughの時代にはまだ熱力学という学問体系や高分子という概念も存在していないうえに、輪ゴムのようなしっかりとした架橋ゴムが存在していない時代でした。Goughの先見性、感覚の鋭さは我々科学を理解する人間からしてみればとてつもないものだと認識しています。

 

JouleやKuhnなどによってこれらが定式化され、理論的に確かなものとされる*4*5まで130年。こうしてこの現象は「Gough-Joule効果」として後世までに語り継がれる法則になったということです。

 

近年は発見される事象もより高度になり、科学の新発見は昔と比べてもそうポンポンは出てきません。しかし、Goughのように、身近な現象に鋭敏にセンサーを向けて、新しい発見を得られるよう心掛けることができたら、そう思う今日この頃であります(叶わなさそうな願望)。 

実社会への影響

そういった現象の名前や話を聞いて「役に立たない」「どうでもいい」という人がいるわけですが、我々の社会に大いに役に立っているというのが事実です。

目に見えて明らかなものとして、このGough-Joule現象を生かして発熱効果を有する繊維*6*7というものも製造されていたりします。着用時に体を動かすことで、繊維が伸び、発熱するということで、(具体的な用途は分かりませんが)スポーツ用途に販途を広げているようです。個人的にはほかにも色々用途が膨らみそうだなとは思います。

 

ストレッチエナジー ホット機能素材 | スポーツ機能素材 ライブギア|旭化成アドバンス株式会社

 

最後に

Gough-Joule効果についてでした。現象の面白さもさることながら、その発見された背景も非常に興味深いと個人的には感じているので、紹介させていただきました。みなさんにも同意をいただければこれほどうれしいことはありません。

 

質問、感想、忌憚なき意見があればコメント欄にどしどし、お願いいたします。また読者登録、Twitterのフォローもしていただけると、私のモチベーションにもつながります。何卒よろしくお願いします。

 

では

 

*1:ガフ・ジュール,グー・ジュールなど読み方ルビには何通りかある。正確性を期すために英語表記することをお許しいただきたい

*2:ガフ,グーなど

*3:ジュール

*4:どうしてこのようなことが起こるのか、ということをイメージとして正確に語るのは私の実力では難しい。理論的な背景について知りたい方がいれば、「高分子物理学 斎藤信彦(裳華房)」の該当箇所を読まれることをお勧めしたい。

*5:実際の式はこの記事にいつか追記しようと思う。

*6:ええほんとかよ....と正直なりますが、詳細については分からない。詳しい人教えてください

*7:具体例にもっとふさわしいものがあるだろ!と言われるかもしれませんが許してね。