ばけまなび

化学について書きます あとは雑記

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アスベスト その実態に迫る

口で言うのは簡単です。

どうもたかおです。

 

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スーパークソザコサムネイル どうもこんにちは

 

はじめに

2020年と言えば東京オリンピック、楽しみな方も、そうでない方もいらっしゃるとは思います。そんな中で2019年の年末にこのような話題がニュースの一面に躍り出ました。

www.nikkei.com

アスベストは我々の身体に害をもたらし、最悪の場合命を奪う*1、ということはテレビや新聞、ネットなどで耳にする(してきた)方も多いとは思います。私が初めてアスベストの存在と危険性を知ったのは、2005年頃にアスベスト関連の被害報告*2のニュースを見たことがきっかけでした。

現在ではその危険性から、アスベスト及びアスベストを0.1%を超えて含有する製品の使用が全面的に禁止されており*3、我々の身近にアスベストを感じることはかなり少なくなっています*4。だからこそ、このように国際的な会場でアスベストが使用されている、という事実に怒りや恐怖を覚えるのかもしれません。

 

アスベストは怖い、で話が終わっても構わないのかもしれませんが、上の記事で取り上げられている事実から鑑みても、アスベスト問題は社会的には過去の問題ではなくこれからも考えていかなければならない問題の一つであると思われます。となった時に、危険な化学物質「アスベスト」に対して化学的な理解をもう少し深めておきたいという気持ちに至ったわけです。

今回の記事では、

ということについて、いろいろと調べたことを皆さんと共有できたらと思います。今回は上の二つのみに焦点を当てて記事を書いていきます。複雑な問題ではありますが、できるだけ、分かりやすい言葉で説明するつもりです。

それではよろしくお願いします。

 

アスベストとは

定義

アスベストについては多くの機関、分野ごとに様々な定義があるので一概にこれとは言い切れないのですが、一般に「天然に産する繊維状鉱物の総称」のことを指します。つまりアスベストという化学物質が存在するわけではなく、あくまで今の定義に当てはまる天然鉱物全般のことを指すわけです*5。そしてその繊維の大きさについては「長さが5 µm以上,幅が3µm以下で,長さと幅の比が3対1以上のもの」というようにWHOでは定義しています。人間の髪の毛の太さが50~100µmですから、その10分の1以下の太さと超極細なんです。

 

工業の分野で用いられ、現在規制がなされているは以下の6種類であり、我々がニュースで耳にするアスベストというのはこの6つのことを指している場合が多いです。 

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アスベストの種類

横文字多いし何が何だか...といった感じですが、「くらえ必殺クリソタイル」くらいの気持ちでいいと思います。

 

特性

アスベストは多種多様な特性を持っています。ここではその代表的な例を紹介します。

 

1. 紡織繊維性

織って繊維にすることが出来るということです。アスベストは他の無機繊維、有機繊維類と比べてもとても細いです。例えばクリソタイルの場合単繊維は直径0.02µm、長さ1~20µmとなっています。この細さがゆえに、アスベストで作った繊維はめちゃめちゃしなやかという特長があります。

2. 耐熱性

アスベスト熱に強いです。クリソタイルで600℃、角閃岩類では400℃~900℃まで熱に耐えることが出来ます。火浣布(かかんぷ,火で洗える布)という名で中国 周の時代から呼ばれていたそうですから、昔からアスベストと言えば熱に強いと評判だったわけです。

3. 抗張力性

アスベスト引っ張っても壊れない丈夫な繊維です。多少のことでは壊れません。

4. 耐薬品性

アルカリ、酸もなんのその、酸塩基によって劣化したりもしません。割と無敵です。

5. 絶縁性・耐摩耗性・防音性

電気を通さない、というのも物質として強い特性です。そして、そう簡単にすり減ったりしない、といった特徴や、綿状に加工することで音を吸収してくれるという特性もあります。

 

いい面だけを連ねてみましたが、並べようと思ってここまで多くの特性を並べられる物質もそうそうありません。加工もしやすい、過酷な条件でも壊れない、なんにでも使える、というのは工業的にはまさに無敵、奇跡の鉱物と呼ばれて当然なハイスペック鉱物なわけです。

 

この特性を生かして、建材であったり、ブレーキパッドであったり、あとはガスケット(配管のつなぎ目などにつけて気密性を持たせるための密閉剤みたいなやつ)などに使われてました。

 

化学構造

上の図表にアスベストと呼ばれる鉱物の名前を書いてきましたが、それぞれの化学式に着目してください。基本的にケイ素(Si)とその他のイオン(マグネシウム(Mg)や(Fe), カルシウム(Ca))と酸素(O)・水素(H)で構成されていることが分かります。これらの元素は、規則正しく並んで結晶構造を作っていて、その構造がゆえに上記の性質を示すわけです。ここではその結晶構造について簡単に触れていきます。

 

蛇紋石類のクリソタイルの結晶はSiとOによって形成される四面体構造と、MgとO(もしくはOH)によって形成される八面体構造が、図のように輪っか状に重なった構造をとっています。このストローは直径30~50nm程度の繊維状になっており、これが束のように集まって塊を作っているわけです。*6

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クリソタイルの結晶構造

クロシドライトアモサイトを始めとした角閃石類は、SiとOによって形成される四面体構造と、金属イオン(FeやCa)とO(もしくはOH)によって形成される八面体構造が、層状に重なって結晶を作っている点ではクリソタイルと同じです。違いとしては、これらの場合は四面体構造が八面体構造を挟むような結晶構造をとっています。これが画面に垂直な方向に長く伸びて単繊維を構成しているというわけです。そしてこの基本構造が図のような雰囲気で敷き詰まって*7おおきな結晶を作っています。

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角閃石アスベストの結晶構造

このような一定方向に長い結晶という構造のおかげで、アスベストは細くて(力学的に)強い物質となっています。

 

 

文章は長ったらしいしよくわからんという方はさけるチーズを連想していただければアスベストがどのような構造をとっているかが分かりやすいと思います。アスベストの塊(チーズ)は一定方向に切れ目が入りやすくなっていて、細くて長い繊維結晶(割けたチーズ)がきれいに取れるような構造になっています。この細い繊維は、単繊維と呼ばれるこれ以上割くことのできない繊維のユニットが束になってできています。さけるチーズも極限まで割けそうな感じがしますが、結局ある程度の太さで取れてくるようになっているのと大体一緒です。この細い繊維をアスベストの塊から取りだしてかき集めたものが、俗にいう「石綿」というふわふわしたものになるわけです。

  

アスベストの危険性

さて、ここまではアスベストの特性に焦点を当ててきました。我々がアスベストを広く使い続けてきた理由もお判りいただけたと思います。しかしながら、皆さんご存じの通り、アスベストはこういった特性を持つがゆえに、我々に大きな害をもたらします。

 

先ほども言った通りアスベストはとても細い繊維で、これを敷き詰めて材料として使うわけです。それがバラバラになってホコリのように宙に舞えば我々の肺に入ってきます。しかもアスベスト分解されにくい強い繊維です。肺に入ってもホコリなどと違って分解されません。長時間肺に滞留することで肺やその周辺にダメージを与え、最終的に肺がんや中皮腫を引き起こすことになります。

 

つまり、アスベスト「肺に入るから」危険なのであって、アスベストそのものが毒物であるわけではありません。アスベスト「細い繊維状の物質」だから危険であるという認識が一般的です。つまり、アスベストと類似の形状、大きさがあり、体内で分解されないような物質であればアスベストと同じような危険性を持ちうると言われています。これはスタントン・ポットの仮説と呼ばれている考えで、直径が小さく(<1 μm)長さが長い(>10 μm)物質程、肺に入って滞留しやすく、発がん性などの恐れを強く持つと言われています。近年アスベストの代替材料による置き換えが進んでいますが、技術者たちはこの仮説を基に材料評価を行い、安全な材料を作っているのです。

 

また実をいうとアスベストがどのように疾患を引き起こすのか、というメカニズムは(ミクロな反応機構としては)未だ完全には明らかになっていません*8アスベストに限らず、類似の物質が我々の体に与える影響について、今後さらなる研究がすすんでいくと思われます。

 

最後に

というわけで、アスベストとは何か、どうして危険なのかということについて触れていきました。皆さんにとって新しい発見となっていれば幸いです。

私たち人間はこれからも新しい素材を生み出していくと思います。地球環境にも、人体にも考慮した材料を作っていくためにも、こういった過去の事例を知り、生かしていこうとする努力が大切だと痛感します。知らないでは済まされないですしね。

 

質問感想忌憚なき意見はコメントもしくはTwitterの方にどしどしお願いします。皆さんからのレスポンスが私のモチベーションにつながります。今後とも化学に関する記事をあげていきたいと思っているのでよろしくお願いします。

 

では

 

参考文献

厚生労働省

https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/sekimen/hourei/dl/hou20-350.pdf

 アスベストとは何か? (この記事はお勧め)

https://www.jstage.jst.go.jp/article/gkk/35/1/35_1_3/_pdf

アスベストとナノファイバ

https://www.jstage.jst.go.jp/article/sraj/23/4/23_231/_pdf

 

*1:悪性中皮腫など。

*2:具体的な内容については触れない。

*3:厚生労働省より https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/sekimen/hourei/dl/hou20-350.pdf

*4:平成18年9月1日以前から使用されているアスベスト含有製品は、使用が禁止されていないので、古い建物や機械を探せば見つけられるかもしれない(探すのは危険だけれども)。上のリンクを参照

*5:世の中には天然志向というものもあったりするが、アスベストは天然なのに体には非常に悪い

*6:いくら何でも雑すぎると思ったそこの化学系の方ために化学の用語で説明を入れておく。SiとOの四面体構造は、底面の3個のO原子を他の四面体構造の底面と共有してシート状に連なることで、四面体層を形成している。また、Mg等やOでできる八面体構造については、他の八面体構造と辺を共有してシート状に連なり、八面体層を形成している。四面体構造どうしで共有されていないO原子で八面体が形成されることで、1枚の四面体シートと1枚の八面体シートとが積層構造を形成している形となっている。八面体の単位格子が四面体の単位格子より大きくこの差を調整するように湾曲するため、図のようなストロー状になると思われる。

*7:このあたりの厳密性はカバーできないけれども、許してほしい

*8:とは書いたものの有用な仮説はすでに上がっている。長くなるのでここでは説明しないが、興味のある方はこちらを参照していただきたい。