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化学について書きます あとは雑記

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バイオプラスチックとその役割

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やる気も愛情も感じられないサムネ センスのなさは一級品

 

はじめに

2021年現在、環境問題の一種としてプラスチックに関連した問題が頻繁に取り上げられており、関心を持っている方も多いと思います。例えば、

  • プラスチックを燃やすことで温室効果ガス(CO2)が発生し、地球温暖化が進行する!
  • 海にプラスチックが流出し、海洋汚染につながる!

といった問題は皆さんにとってもなじみ深いテーマでしょう。

しかし、この問題を解決するためにプラスチックをすべてなくすことは現実的ではありません。プラスチックによって得られる環境へのメリットも少なくなく、プラスチックそのものは今後も重要な役割を果たしていく素材になると考えられます。

 

そこで注目を集めているのが「バイオプラスチック」と呼ばれるプラスチックたちです。通常のプラスチックでなくバイオプラスチックを利用することで、環境への負担を抑えられるかもしれない、といった情報をニュースやインターネッツ、教科書などで見たことがあるという方も多いのではないでしょうか。

 

しかしながら、「バイオプラスチックってどんなプラスチックなの?」「どうして環境にいいの?」という疑問に簡単に答えるのは少し難しい。なぜならバイオプラスチックとはいろんな概念を包括する言葉だからです。

 

改めて、この「バイオプラスチック」とは何か、これがどのように環境への負担削減につながるのか、ということを、私と一緒に考えていきましょう!

流れとしては

と、順序だって説明していきます。よろしくお願いします。

プラスチックに関連する環境問題

温室効果ガス

二酸化炭素(CO2)をはじめとした温室効果ガス排出量の増加は地球温暖化の原因であるとされています。これを受け、近年は「脱炭素」と銘打ちCO2排出量を削減、ゼロにする動きが活発になってきています。

この問題においてプラスチックがやり玉に挙げられる取り上げられる理由は、プラスチックが使用後焼却処分される過程でCO2が発生するからです。熱回収(サーマルリサイクル)を除いた国内のプラスチックのリサイクル率は約25%とされています*1から、現状ではプラスチックの使用率が増える→CO2排出量が増えるということになります。
(ただ、プラスチック製造・焼却によって生じる二酸化炭素排出量が世界全体の何%くらいなのか、という見積もりは見つけられず、改善がどれだけのインパクトがあるかを評価するのは私には厳しかったです。世界の共通認識となっている調査結果がどこかにあるものと思われますが、もしご存知の方がいたら教えてください。)

海洋プラスチック問題

プラスチックは一般に分解されにくい安定な物質です。これが海洋に流出し小さな大きさで残存することで生態系に影響を与えることが近年懸念されています(マイクロプラスチック)。現在国際的にプラスチックの流出量を減らそうという動きになっており、近年様々な政策が各国で打ち出されているようです。

*2

 

バイオプラスチックとは

二種類のプラスチックの総称

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バイオプラスチックの分類

こういった問題を解決しつつもプラスチックの環境に与える良い面を活かそうということで、バイオプラスチックへの代替が検討されています。
こう書くとバイオプラスチックという一種類のプラスチックがあるのかと誤解を招きかねないですが、実はバイオプラスチック機能・目的が異なった二種類のプラスチックの総称を表します。
この項目では、その二系統、

について説明します。

バイオマスプラスチック

石油由来でない、植物などから原料を得て製造されるプラスチックのことをバイオマスプラスチックと呼びます。
この場合、原料が何かが重要であって、それがどのような性質を持つかは問題ではありません。例えば、レジ袋の材料であるポリエチレンは石油(ナフサ)から作ることができますが、サトウキビなどの植物を発酵させて得られるエタノールからも作ることができます。どちらも化学式で書けば同じポリエチレンですが、後者は原料がバイオ由来であるためバイオマスプラスチック(バイオポリエチレン)と呼ぶことができます。

生分解性プラスチック

土壌や海にいる微生物によって分子量の低い化合物*3へと分解される性質を持つプラスチックのことを生分解性プラスチックと呼びます。
この場合生分解性を有するかが重要であって、それが何からできているのかは問題ではありません
例えば石油から作ったプラスチックでも、生物によって分解される性質を持つならばそれは生分解性プラスチックです。バイオプラスチックと呼ばれる分類であっても必ず生物原料のものを指すわけではないという点は注意が必要です。 

まとめ

したがって、バイオプラスチックと呼ばれるプラスチックにも、「生分解性だけどバイオマス由来でないプラスチック」「生分解性はないけどバイオマス由来のプラスチック」「生分解性を有するバイオマスプラスチック」といろいろな区分が生じることになります。

上のようなベン図を思い浮かべると分かりやすいかもしれません。

 

役割について

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バイオプラスチックの具体例とその役割

ではそれぞれのプラスチックはどのように今抱えている問題を解決するのでしょうか。

これらは同じバイオプラスチックの括りであっても、機能は全く違うことを上で説明しました。したがってそれぞれが解決する問題もまたそれぞれで違うということになります。詳細を見ていきましょう。

バイオマスプラスチックはCO2削減

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バイオマスプラスチックが果たす役割

バイオマスプラスチックは原料が植物です。したがって原料は光合成の過程でCO2 を吸収して成長します。したがって焼却処分してCO2を放出したとしてもトータルのCO2量は増えないという単純計算ができます。またバイオマスプラスチックをリサイクルして使い回すことができれば結果的にCO2を減らすことにつながります。このようにバイオマスプラスチックの利用によってCO2排出量の削減につながるわけです。

バイオポリエチレンの例ですが、いかにその具体的な削減量の見積もりがあります。製造時の排出量を加えても4分の1弱は削減できる計算になる様子です。

「バイオプラスチック」と環境問題 | 株式会社旭創業(asahisogyo)

 

生分解性プラスチックは廃棄物の削減

生分解性プラスチックは微生物によって低分子化合物に分解され、究極全てCO2と水に変換されます。したがって廃棄物として残るものがありません。このことから環境に流出するプラスチックの量を減らせるという利点があります。

例えば海洋プラスチック(マイクロプラスチック)の本質的な問題は海洋に流出してプラスチックのまま残存することですから、分解してなくなってしまう生分解性プラスチックならば万が一流出しても被害は抑えられる、ということになります。

 

ただし、生分解される条件というのは種類によって異なるため「生分解性プラスチック」であれば海で分解されるというのは大きな誤解です。例えば生分解性プラスチックの代表例であるポリ乳酸(PLA)コンポストといった高温多湿の環境下ではよく分解されますが、海上では分解は進行しにくいものです。したがって海洋に流出した際に分解されるため問題ない、という話はPLAではできないのです。それぞれの性状を述べるときりがないのでここでは割愛させていただきますが、生分解性プラスチックそれぞれの”分解のトリガーを正しく理解し、目的に応じた利用*4をすることが重要だといえます。 

最後に

バイオプラスチックとは機能の異なる2種類のプラスチックの総称であること、それぞれの役割が何かについて説明してきました。なんとなく環境にやさしそう、そんな「バイオプラスチック」の姿を具体的に理解いただけたならば幸いです。

今後各社で色々なプラスチック製品が開発されると思いますが、こういったことを念頭において注目すると面白いかもしれませんね。

 

以下は私の個人的な意見を述べさせていただきます。

はじめに「プラスチックによって得られる環境へのメリットも少なくなく、」今後も使われるだろうと推測を申し上げました。

例えば電気自動車にプラスチック材料を用いることで車体の軽量化が図れ、使用エネルギーが削減できたり、食品包装に用いることでフードロスや輸送エネルギー(CO2排出)が削減できたり...。環境に悪いことばかりではない実情があります。

プラスチックがいい、悪いといった極端な議論ではなくて、「バイオプラスチック」、つまりバイオマスプラスチックと生分解性プラスチックをうまく活用することで、世の中の複雑な問題が解決できればいいのかもしれないな、と考えています。

 

まあ世の中、流行り廃りがあるので、どうなるかなんてわからないですけどね。今後も注目していきたいですね。

 

では

 

参考文献

生分解性プラスチックの課題と将来展望 | 三菱総合研究所(MRI)

 

*1:環境省資料より 海外に輸出している分ものぞけばさらに低い値となる。 https://www.env.go.jp/council/03recycle/20201120t2.pdf

*2:日本貿易振興機構 ホームページより 「急速に広がるルール作り」各国のプラスチック製品への対応 | 特集 - ビジネス短信 - ジェトロ

*3:最終的にはCO2と水

*4:海に流れたプラスチックが分解されることを念頭に置くなら、海洋生分解性を持ったプラスチックを利用する、など。PHBHなどが該当する。