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化学について書きます あとは雑記

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【DNAはかたい? 】高分子の屈曲性とは

仕事つらぽよ

どうもたかおです。

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全然読者が増えないのはこのサムネのせいだと思っている

 

はじめに

高分子とは、モノマーがつながってできた分子で、よく鎖だとかひもに例えられます。化学の世界ではこうした構造を繰り返し単位をかっこでくくって表記することを良くします。

しかし、この高分子のヒモそのものの形や大きさについて考えたことがある人は少ないのではないでしょうか。例えば、溶媒の中に一本の高分子がポツンと存在していた場合、この鎖はどのように存在しているか、皆さん想像できますでしょうか。

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一本の鎖の形は?

私自身、この概念を大学の講義で聞いて、考えたときに「そういえばわからんなあ」となったのですが、皆さんは気になってきませんか?

そういったヒモの形を定める指標として、高分子の屈曲性グネグネ曲がりやすさ)というものが挙げられます。

今回はそういった高分子の「グネグネ具合」の観点から、いろんな高分子を見ていきましょう。

 

高分子の屈曲性

そもそも高分子に屈曲性がある状態とは何を指すのでしょうか。ちょっと卑近な例を挙げて考えてみましょう。

例えばブタン(CH3-CH2-CH2-CH3)を想像しました時、この分子は中央の単結合を軸に回転することが出来ます(内部回転, 分子内回転)。*1

 

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ブタンの分子内回転


ポリエチレンやポリプロピレンといった高分子は、このブタンみたいな炭素の連なりが長くつながっているため、炭素同士の単結合を軸にした分子回転の自由度が多数あります。これによってポリエチレンやポリプロピレンは、高分子が溶媒の中にポツンと存在していた際にぐにゃぐにゃに折れ曲がって、ヒモが入り組んだ「糸まり」状態をとると想像できます*2

まとめると、C-C単結合といった、結合周りの分子内回転が起こりやすく、その形態が容易に変化する状態を屈曲性があるというわけです。こういった性質を持つ高分子を屈曲性高分子と呼び、大体の汎用高分子(ポリエチレン、ポリプロピレンなどなど)はこの分類に入ります。 

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屈曲性と分子構造の関係


 

では屈曲性がないとはどういう状態か?というと、この分子内回転がない、もしくは阻害されている状態のことを指します。

たとえばポリ(p-フェニレンテレフタルアミド), 通称ケブラーは、繰り返し単位を見ていただくと分かるように、パラフェニレン基とアミド結合の組み合わせでできており、分子内回転がしにくそうな1次構造となっております。

こうした分子はぐにゃぐにゃと曲がらないので、溶媒の中でポツンといる際も、ワイヤーや針金のように真っすぐ伸びた状態となります。

 

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アラミド 剛直な高分子

また置換基があることで分子内回転が阻害されている高分子や、DNAのように水素結合を介してらせん構造を作る高分子は、形態が変形しにくいことが知られています。ほかの例としてはセルロース誘導体(酢酸セルロース)やポリマーブラシ(側鎖に長いヒモがたくさんついている高分子)があります。

こうした屈曲性の少ない高分子を、その”かたさ”に応じて剛直性高分子だとか半屈曲性高分子と呼びます。

 

屈曲性が与える影響

屈曲性が違うと、もちろん高分子そのものの性質が全然異なってきます。

一番顕著なのは、製品に加工した時に高強度なものができやすいというところがあると思います。

 

それはなぜか。

 

高強度の高分子材料を作るためには、結晶化度を上げる必要があるのですが、そのためには高分子のヒモを伸ばして揃える必要があります。

糸まりみたいな高分子(屈曲性高分子)がグチャグチャに絡まっている状態をほどいて揃えるのは難しそうですが、茹でる前スパゲティのように棒状に硬ければ揃えるのも簡単そうですよね。

したがって鎖の屈曲性が低く"かたい"高分子は高強度の材料になりやすいのです。

 

最後に

今回は高分子の屈曲性について触れました。

高校までしか高分子を見たことがない人にとっては、少し変わった高分子の見方ができたのではないでしょうか。DNAときくと、やはり生物における重要な機能を持った分子ではありますが、タイトルや記事中にも挙げたように、高分子としてみると「二重らせん構造を取り、曲がりにくい」という物理的にも強烈な個性も持ち合わせていることが言えるわけです。このように色々な観点から見ることが出来るというのも、分子の面白さなのではないでしょうか。

 

では屈曲性はどう測るのか?DNAは実際のところどれくらい”かたい”のか?
という素朴な疑問についても書きたいところでしたが、それについては高分子の教科書に任せたいと思います(文字数も多くなりますしね!)。

 

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では

*1:もちろんこのうち最も安定な形態というのは存在するわけですが、室温レベルであればこの障壁を超えてくるくると回ることが可能です。

*2:より動きやすいコンフォメーションである方が安定であるから。