【楽しい!】レオロジーの学び方
人生山あり谷あり、自分の理想とはベクトルがよくずれます。
どうもたかおです。
はじめに
当ブログでよく話題にしてきたレオロジーですが、重ねて説明すると「物質の変形と流動」を見る学問でした。つまりレオロジーを勉強すれば、なぜゲルがプルプルなのかも説明できますし、スライムの不思議な感触も理解することが可能です。
また工業的な世界においてもレオロジーは重要な役割を発揮している学問です。例えば(高分子では顕著ですが)、化学的には優れた樹脂なのに、熱をかけて加工しようとしてもうまく加工できない、加工条件を変えると、思った物性が出ない、といった問題に直面した際に、レオロジーを理解していればそれを基に解決の糸口を見つけることが出来ます*1。
このように面白くて役に立つレオロジーについて紹介している記事はインターネットにたくさんありますし、レオロジーに関する良著も多く刊行されています。お金を出せばレオロジーのセミナーも受講することができるでしょう。レオロジーを学ぶ環境は初めて学ぶ人にも開かれていると思います。
しかしながら、レオロジーをどう学んでいけばいいのか、という点を説明した記事は少ないように思います。そんなものなくても独学することはもちろん可能ですが、最終的に何を理解することが出来たら楽しくて、そのために何を理解する必要があるのか、なぜそれが大切なのかが分かれば、より一層楽しく勉強できるのではないでしょうか。
今回はレオロジーが活躍する主たるフィールドの一つ「高分子」のレオロジーについて何をどう学べばいいのか、その一例について紹介していけたらと思います。
対象については以下を想定しています。
- 高分子レオロジーに興味あるけど、何をどう勉強したらよいか分からない人
- ある程度勉強を進めてきたものの、知識が整理できなくなってきた人
- 化学は分かるけど物理はちょっと...な人
需要あるのでしょうか。過去の私だったら、こういう情報が知りたかったなとも思うので、挑戦的ですが書いてみることとします。
どうぞよろしくお願いいたします。
お勉強の流れ
1. 変形様式
物質の変形と応答を見るといっても
- そもそも変形とは何か
- 変形の種類って何があるの?
- 変形の大きさや、変形に対する応答の大きさを評価する物理量は?
が分からないと、何が何だかわからないですよね。
具体的には
- 変形の種類: 伸長変形とせん断変形
- 変形の大きさ: 伸長ひずみ と せん断ひずみ
- 変形に対する応答: 伸長応力とせん断応力()
がレオロジーでよく扱う変形と物理量です。どんなレオロジーの教科書にも書いてあるので、まずはしっかり抑えるポイントだと思います。
2. 弾性・粘性・塑性の三つの性質
私たちの身の回りには、スライムやマヨネーズ、水あめみたいに「これ固体か液体か分からない」みたいなものがたくさんありますよね。実をいうと世の中の物質はこの変形(変形速度)と応力の関係でどういう性質のものかを全て分類することができます。
分類は弾性・粘性・塑性という3つの性質の組み合わせで実現できます。
従ってまずは理想的な弾性体、粘性体、塑性体のひずみ(ひずみ速度)と応力の関係を理解をすることができれば(`・ω・´)bと思います。簡単に下にまとめてみました。
- 理想弾性体(フック弾性体): 応力とひずみが比例関係にある
- 純粘性流体(ニュートン流体): 応力とひずみ速度が比例関係にある
- 理想塑性体(ビンガム塑性体):ある一定応力をかけたときに流動し、以後応力がひずみ速度に比例する*3
3. 非理想的な物質と分類
上で挙げた性質はあくまで理想的なもので、多くの物質は理想的な性質からずれていることが多いです。そういった非理想的な物質の代表例とその名前を覚えましょう。
例えば当ブログで取り上げてきたダイラタント流体*4であったり、スライムなどが該当する粘弾性体*5というものがこれに該当します。
こういった複数の分類もレオロジー的には固体か液体かに大きくくくることが出来ます。
こういった分類がある中で、高分子は粘弾性体に分類されます。高分子のレオロジーを理解するために、まず粘弾性を理解していきましょう。
4. 粘弾性を特徴づける現象と物理量
粘弾性とは、その名の通り粘性と弾性が合わさった性質のことで、具体的には、時間によっては弾性的になったり、粘性的になったりする性質のことを指します*6。スライムをイメージしていただければ分かりやすいですが、変形を加えた瞬間はブヨンと弾性を示すのに、時間が経つと粘性が現れ始めてドロドロ流れていきますよね。アレです。
私たちはスライムをはじめとした粘弾性体を触った時に、抽象的な表現でこれらを表現することが出来ます(こっちの方がねばねば、とか、こっちの方がさらさら、とか)。しかしながらこれでは個々の粘弾性体の性質を数字で比較することが出来ません。粘弾性を数字で評価できるようになるために、粘弾性を表現するのに必要な現象と物理量を覚えましょう。
例えば現象としては
- 応力緩和
- クリープ
- 動的粘弾性
が挙げられますし、この現象を表す物質量としては
など、他にもいろいろなものがあります。
5. 高分子とは
高分子のレオロジーということは高分子とは何か、ということを理解しなくてはなりません。「なめているのか」と化学徒の皆さんは思われるかもしれませんが、化学での高分子の捉え方と、レオロジーのような物理での高分子の捉え方は少し異なります。
例えば、化学徒のみなさんは高分子をモノマー(分子的な単位)の重合体で考えますが、物理ではセグメントというある一定の塊単位の連なりでこれを記述します。
この考え方を起点に、どうして高分子が弾性を発現するのかが、理論的に説明できるようになるのです。
こうした物理的なとらえ方を理解することで、高分子のレオロジー(=高分子の粘弾性)を分子の気持ちで議論することが出来るようになります。
6. 高分子の粘弾性
粘弾性とは、高分子とは、というところを理解したうえで、高分子で粘弾性を評価する手法と実際に得られる粘弾性挙動を見ると、化学だけでは感じられないダイナミックな高分子の姿が浮かびあがってきます。要は得られる力学的性質を分子の動きで説明できるようになると言いたい。
高分子の運動様式は分子全体が動く大きい運動から、分子の一部分しか動かない小さい運動までいろいろあり、これらは変形を加えてから時間差で出てきます。それぞれの運動が現れてくる領域を下のように分けることが多く、これらについてどういうものか理解すると、ウニョウニョ動く高分子を満喫できます。
- ガラス領域
- 転移領域
- ゴム状領域
- 流動領域
こうした高分子のダイナミクスを実際に評価する上では
- 時間-温度換算則
というある種の経験則を学ぶ必要があります。
また、分子の運動を式で見たいという方は、
- Rouse模型
- 管模型
という二つのモデルを理解することで抑えられるはずです。
もう少し具体的に言及すると、高分子は加工するときの状態である高分子液体と、加工して出来上がった状態である高分子固体では、評価の仕方も、見ている高分子の運動も少し変わってきます。ですから、これらの内容は多くの教科書で明確に分かれていることが多いです。
高分子液体のレオロジーは高分子を加工する際の”流動”のコントロールによって、出来上がりを制御するという意味で役に立ちますし、高分子固体のレオロジーは出来上がった製品がどうしてそのような性質を示すのか、もっといい性能を出すためにはどうしたらいいのか、みたいなことを評価する上で役立つと思っています。ここまできますと、専門的な内容になってきますから、目的や興味に応じて勉強しましょう。
ちなみに私もまだまだ勉強中といった所なので、偉そうに講釈することはできません。
皆さん一緒に勉強しましょう!!!
何で勉強すればよい?
以前別の記事でおすすめの教科書を紹介しました。よろしければ参考にしてください。
最後に
今回は柄にもなく、高分子のレオロジーの学び方について一例を紹介しました。
こんなニッチなブログを読む皆さんのことですからよくご存じだと思いますが、勉強は理解できれば楽しいですし、どんどんのめりこむことが出来ます。今回の記事を通して、レオロジーを学びたいと思った方が、挫折せずに学べるヒントを提供できたらいいなあと思います。レオロジーを面白いと思ってくださったら嬉しいです。
上に書いた内容について、今後小話を書いていくかもしれません。お楽しみに。
もちろん今回の例が絶対的な王道ということはありません。人によって理解の仕方は違いますし、やりようもたくさんあります。そもそも私自身まだまだ知識を重ねている最中です。あくまで「参考にしてください」ということは強調させてください。それから、偉い人が見てましたら、間違いをご指摘下さい。間違いは真摯に訂正します。
では
参考文献
基礎高分子科学, 高分子学会 編
レオロジーの世界, 尾崎邦宏 著
*1:理解しているからといって必ず解決できるわけでもない。現に私が苦しんでる。
*2:2021/9/1 誤植を訂正
*3:理想塑性体とあえて記載したが、機械工学とかの世界でこのように表記すると少し意味合いが変わってくるらしいので注意。
*5:スライムは固体?液体? - ばけまなび や スライムの原理 -構造から考えるー - ばけまなび
*6:よく、粘弾性=固体と液体を合わせた性質と記述する記事があるが、この表記は正確ではない。上で挙げた塑性体も、一定応力を書けないときは固体、一定応力以上では流動するため液体、といったように固体と液体の両方の性質を持ち合わせている。