いろんな熱可塑性エラストマー -構造と具体例-
己の不甲斐なさで社会がまぶしく見える。
どうもたかおです!!!
はじめに
前回までの記事で、熱可塑性エラストマーとは何か、熱可塑性エラストマーがなぜ弾性を発現するのかをかなりきれいにまとめて見せました。
しかし、まだ満足できないという声、具体例がないじゃないか!という不満もあるかと思われます。
いろいろな熱可塑性エラストマーのことを理解する上では
- どのような分子が熱可塑性エラストマーとして使われているのか
- その分子がどのような構造をとっているのか
の二つを理解する必要があります。
この記事では
をざっくりと説明していきます。細かいところは実をいうと私もまだまだ分からないです*1。もっと学ぶ中で説明を改訂できたらと思っています。それではどうぞ~。
1. 熱可塑性エラストマーの色々な構造
前回までの説明をおさらいすると、
(I)熱可塑性エラストマーはハードセグメントとソフトセグメントで構成されている。
(II)それぞれのセグメント同士がミクロ相分離して集まりあい、ソフトセグメントは弾性を発現する部分として、ハードセグメントは架橋点としての役割を果たす。
(III)ある温度以上になるとミクロ相分離が解消されて流動する。
ということでした。これはほとんどの熱可塑性エラストマーについて言えることです。
一方で図ではこんな感じでかいていましたね。
しかしこの図に関して言えば、あくまで熱可塑性エラストマーの構造の一例に過ぎなかったりします。ハードセグメント(赤色の部分)のとる構造が分子の構造によって少し異なるのです。その分類を図で見てもらいましょう。どん!
aタイプ, bタイプ*2についてはハードセグメントが点のように集まっているという点では一緒ですが、集まり方が少しずつ違います。aタイプはハードセグメントがガラス状態(運動性が下がっている)になっていますが、bタイプについては高分子鎖が折りたたまったり、平行に並んだりして結晶を作っています*3。些細な違いかもしれませんが、弾性率や耐熱性といった性質の違いに大きく効いてくるようです。
cタイプはこれまで私が説明してきたものと見た目から違います。これはハードセグメントである樹脂の海の中に、ソフトセグメントである架橋ゴムが島のようにぷかぷか浮いている構造になっているのです。今までと逆ですね。具体的な事はあとで説明しますが、こういう構造をもつ熱可塑性エラストマーも存在するのです。こういうものを作り方から動的架橋型といいます。*4
全てこの分類に当てはまる、と断言はしませんが、大体のエラストマーはいずれかの構造に分類されます。しかしこれもまた模式図でしかありません。それぞれの分類の中でもっと細かな違いを出すこと*5ができて、それによってさまざまな性質のエラストマーが生まれるわけです。
2. 熱可塑性エラストマーの具体例と応用
さて、熱可塑性エラストマーの構造についてお話したら次は具体例と応用です。
このパートでは有名な熱可塑性エラストマーとして
を紹介します。そしてそれぞれについて
- 化学構造
- 分子の構成
- 集合体の構造
- 用途
を説明します。
スチレン系(TPS)
化学構造
分子の構成
トリブロックコポリマー
集合体の構造
aタイプ
用途
靴のソール ゲルクッション 樹脂と混ぜて使う
その他
架橋点とゴム成分がきれいに分かれていること*6から「最も天然ゴムに近い触感」といわれているらしい。なんだかんだで私たちが手に触れて使う機会が最も多いものな気がする。
ウレタン系
化学構造
ジイソシアネート、短鎖ジオール、高分子量ジオールの三つが重合して一つのヒモになっています。*7
分子の構成
マルチブロックコポリマー
集合体の構造
bタイプ
用途
その他
透明なスマホのケースってプラスチックともゴムとも言い難いブニブニ感があったりするよね!普通のゴムより強靭、かつ耐摩耗性に優れているらしい。手に触れるところに案外といるよこいつ。
エステル系
化学構造
ジカルボン酸(だいたいテレフタル酸感)と短鎖ジオール、高分子量ジオールが組み合わさってできます。
分子の構成
マルチブロックコポリマー
集合体の構造
bタイプ(cタイプ)
用途
自動車部品や電気部品など。
その他
耐熱性や耐薬品性、耐油性に優れているらしい。目に見えないところでの使用が多い。私たちが身近に感じられる例としては東海道新幹線の座席のクッションとかに使われていたりする。
アミド系
化学構造
分子の構成
マルチブロックコポリマー
集合体の構造
bタイプ(cタイプ)
用途
スポーツ用品
その他
耐油性にも耐熱性、消音性にも優れているが、ゴム弾性に乏しいことや地味に高価な事もあり、利用は限られていると聞いた。一方で需要も高まっているとニュースで見たので、今後注視していく必要があるかもしれない。
オレフィン系
化学構造
集合体の構造
cタイプ
用途
自動車部品にめっちゃ使われている。
その他
単純にエチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)とポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)を混錬して作った熱可塑性エラストマーというのもあるのですが、今回は動的架橋型に焦点を当てます。めちゃめちゃ簡単に説明すると、「二つの材料を混ぜ合わせてる時(動的)に片っぽをゴム化しちゃえ(架橋)!」ということです。EPDMは繰り返し単位に開裂可能な不飽和結合を持っていますから、過酸化物をぶっこんでやればそこから架橋反応が進んで、架橋ゴムが出来ます。架橋ゴムができるとPEやPPの中に溶けていられなくなり、構造模式図に示したような「海と島」の構造を作る、といった算段なのです*9。
なんでこのような構造でゴムのような弾性を持つようになるのか。不思議かもわかりませんが、一応答えは出ているみたいです*10。
熱可塑性エラストマーのいいところをもちろん持ち合わせていますが、それだけでなく、熱可塑性エラストマーの中で最も軽い、耐熱性、耐寒性、耐候性、耐薬品性、安いといったこともあり、車の軽量化のためにそこたら中に使われているようです。案外とアームレストやインパネとかもオレフィン系でできているようですよ!
最後に
今回は熱可塑性エラストマーの構造、具体例と応用について踏み込んでいきました。身近に手に触れるところにある「ゴムっぽい物」がどのような形・構造をとっているのかということも紹介できたと思いますし、スマホのケースってこんな化学構造になってるんだね~って思っていただけたらそれで充分なのかなと思っています。そして高分子科学を学ぶ人にとっても出だしの一歩目として役に立つ記事が出来たのかなとも思います。*11
しかしこの記事でできていないことがあります。「構造と物性の関連付け」です。ハードセグメントとソフトセグメントの比率でどのように構造が変化するのか、どのような構造だとどのような物性が出るのか、結晶化度をコントロールすると強度がどうなるのか、といった「ミクロからマクロへ」の流れが説明できていません。この辺は私の実力不足・知識不足が原因だったりするのですが*12、この基盤知識があれば、他の専門書やpdfを読んでも対応可能と思われます。是非気になったことはこの記事をスタートにしらべてみてください。
また合成法については、少し自信がないのと、記事にまとまりが出ないこともあって、意図的に載せませんでした。参考文献をたどれば比較的容易にカバーできると思いますので、その情報を求めておられる方は大変申し訳ないですがそちらからお願いいたします。
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また次回の記事でお会いしましょう!
では!
参考文献
総説
熱可塑性エラストマーの現状と将来展望
https://www.jstage.jst.go.jp/article/gomu/83/9/83_9_269/_pdf/-char/ja
熱可塑性エラストマーの構造と物性
https://www.jstage.jst.go.jp/article/gomu1944/57/11/57_11_668/_pdf
ウレタン系
無黄変熱可塑性ポリウレタンエラストマー
https://www.tosoh.co.jp/technology/assets/18-4-5.pdf
ポリウレタン系熱可塑性エラストマー
https://www.jstage.jst.go.jp/article/gomu1944/57/11/57_11_704/_pdf
アミド系
熱可塑性ポリアミドエラストマーの構造と粘弾性特性
https://www.jstage.jst.go.jp/article/japannctam/59/0/59_0_44/_pdf/-char/ja
ポリアミド系熱可塑性エラストマー
https://www.jstage.jst.go.jp/article/gomu1944/57/11/57_11_753/_pdf
オレフィン系
動的架橋
https://www.jstage.jst.go.jp/article/gomu1944/69/4/69_4_290/_pdf/-char/ja
動的架橋型オレフィン系熱可塑性エラストマーの構造と力学物性
https://www.jsr.co.jp/rd/assets/pdf/tec112-4.pdf
動的架橋型熱可塑性エラストマー
https://www.djklab.com/parts/support/pdf/56.tpv-1.pdf
ゴムの特性とその秘密
http://www.tokyozairyo.co.jp/content/200167561.pdf
*1:各製品群に関する物性や最新の動向など。それをすべて説明できるほどインプットも足りていないのです。
*2:a, b, cタイプといった名称は私が勝手につけた名前なので決して一般的な名称ではない。注意されたい。
*3:高分子の結晶って何ですか?についてはこちらなどが参考になるかもしれない
*4:ちょっとまて、アイオノマー系が入っていないぞと思ったそこのあなた、今回は省略している。いずれ記事にできたらいいと思っている。
*5:具体的にこう、と簡便に説明できなさそうなので割愛する。
*6:はっきりと相分離している、ということ
*7:具体的な組成例はこちらが参考になると思われるhttps://www.jstage.jst.go.jp/article/gomu1944/57/11/57_11_704/_pdf
*8:ソフトセグメントとハードセグメントのつながり方は、各社で異なっていたりする。そのためセグメント間を点線で表記した。詳細については参考文献-アミド系の欄のリンクを参考にされたい。
*9:製法の詳細はこちらが非常にわかりやすい。 https://www.djklab.com/parts/support/pdf/56.tpv-1.pdf
*10:概略のみこちらの方に記されている。https://www.jstage.jst.go.jp/article/gomu/83/9/83_9_269/_pdf/-char/ja
*11:もっとも、このまとめを一番大事にしたいのは私なんですけどね。
*12:個々の物質については多少いえるかもしれないが、分子論的な部分に踏み込めるほどだはないということ。というのもあるし、多分まだまだ分かっていないこともたくさんある。