ばけまなび

化学について書きます あとは雑記

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熱可塑性エラストマーとは?

日に日にメンタルの靭性が弱まっている気がします。

それでも前に進みます。

 

どうもたかおです(元気31^13倍)。

 

今回は熱可塑性エラストマーとは何か、比較的詳しく紹介していきたいと思います。

 

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インターネット・コンテンツのクオリティが年々高まる中、私はクソサムネで勝負する。

 

はじめに

皆さんの周りには、ゴムみたいにビヨビヨ伸びる素材、弾力のある素材がたくさんあります。そんな弾性を持つ材料のうち、高分子でできた材料のことをエラストマーというように呼びます。ということを以前ざっくりと説明しました。(よかったら見てね)

neuechemikalie.hatenablog.com

そして、エラストマーという材料の分類の一つとして熱可塑性エラストマーと呼ばれるものがあることを紹介いたしました。今回はこの熱可塑性エラストマーについて深く掘り下げてみていきたいと思います。

 

熱可塑性エラストマーの特徴

さてまずは、以前書いた記事の内容をおさらいします。

熱をかけると柔らかくなり流動し、冷やすと再び弾性を示すようになるエラストマーを熱可塑性エラストマーと呼ぶのでした。

 

熱可塑性エラストマーのネットワークを形成するひもは、下図の左上のひものように、二つの成分でできたひもになっています。このひもは下の図のように、お互いの成分同士で集まりあいます。このうち比較的自由に動いてゴム弾性を示す部分をソフトセグメント(下図の青色)、集まりあって動かなくなり架橋点としての役割を果たす部分をハードセグメント(下図の赤色)と呼びます。

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熱可塑性エラストマー ハードセグメントが架橋点の役割

 

ハードセグメントは、ある温度以下では固まったままですが、ある温度以上でソフトセグメントと一緒くたになって自由に動けるようになります。そして冷やすとハードセグメントはまたもとのように固まるのです。こういった性質から,熱可塑性エラストマーは成形加工がしやすかったり、使い古し(と言うと語弊がありますが)を融かしてリサイクルしたりすることができる、というメリットがあります。これは普通の輪ゴムのような熱硬化性エラストマーにはない特徴です。

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しかし私は以前までの解説までで

  1. どうして上のような構造をとるのか(どうしてハードセグメント同士で集まりあうのか)
  2. どうしてハードセグメントは固まって動かないのか

ということに触れていませんでした。これらを理解することで、どうして熱可塑性エラストマーが弾性を発現するのか、大まかな理由を知ることが出来ます。これらを理解する二つのキーワード①ミクロ相分離 ②運動性の差 に着目して順に説明していきたいと思います。

 

何故弾性を発現するのか

1.ミクロ相分離

まず、「なぜハードセグメント同士で集まりあうのか」というところですが、その原因が「ミクロ相分離」という現象にあります。詳しく見ていきましょう。

化学物質は、相性の良くない者同士は混ざり合わず分離してしまうというのが一般的です。例えば、水と油は互いに相性が良くないですから、同じコップに入れると下に水、上に油といったように二相に分離するはずです。

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水と油の分離

こういった現象は高分子の世界でも例外ではありません。しかしながら、高分子は、水と油とは違ったような分離を起こす場合があります。

例えば、Aという高分子とBという高分子が、相性の悪い者同士だとします。これら二つを混ぜようと思っても混じりあわないことは容易に想像がつくと思いますが、下の図のようになっていたらどうでしょう。 

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相性の悪い二つの成分でできた高分子

そう、AというひもとBという連結しあっている状態です。これだと水と油のように片方の成分が上に行って、もう片方が下に行って、スパーっと二相に分かれる、というわけにはいきませんよね。こういった状態の時はどうなるか。

 

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A-B-Aタイプの高分子におけるミクロ相分離模式図 あくまでイメージ図なので正確な図は調べてみてほしい

Aの成分とBの成分はお互い同士で集まりあおうとします。しかしながらつながりあっているがゆえに大きな集まりを作ることはできません。例えば下の図のように、小さいドメインを作ってしまうわけです。このような小さい分離の仕方を水と油の分離のような「マクロな相分離」と区別して「ミクロ相分離」という風に呼ぶわけです。

 

分離の仕方はAとBのヒモの長さで変わってきます。場合によってはこれとは全く違う構造を取ったりします。*1

 

熱可塑性エラストマーのソフトセグメントとハードセグメントもまた、つながりあっているわけですが、お互いに相性が悪いのです。従ってミクロ相分離を起こします。そしてハードセグメントがこのように架橋点としてはたらくような分離をするように分子が設計されている、というのが冒頭の「なぜハードセグメント同士で集まりあうのか」ないし、「どうして上のような構造をとるのか」という問いに対する答えになります。

 

また、この二つの成分は、熱を加えてやると互いに仲が良くなります。「相溶性が増す」というのですが、お互いにまじりあうことが可能になるのです。これが「ハードセグメントは、ある温度以下では固まったままですが、ある温度以上でソフトセグメントと一緒くたになって自由に動けるようになります」といったことの理由になるわけなのです。

 

2. 運動性の差

さて、ハードセグメントとソフトセグメントというものが、お互いに相性が悪いがゆえに、図のような構造をとることを説明しました。しかしこれではまだ説明できないこともあるわけです。

分離して上のような構造を作っても、力をかけてこの構造が壊れてしまっては、ゴムのようにビヨーンと伸びて元に戻るということが出来ませんよね。この構造がつぶれない理由について説明します。

 

分離している各領域は別の物質です。そして、それぞれ室温での運動性が違います。これが理解のポイントの一つです。

 

一般に高分子は温度が上がると、ガラス状領域→(転移領域)→ゴム状領域→流動領域というように運動性が段階的に上がっていきます。温度を上げると、ひもがあんまり動かない状態から部分的にビヨビヨうごく状態、へびのごとく動き回る状態と、段階を踏んで運動性が上がっていきます。

 

例えば、代表的な熱可塑性エラストマーSBS(スチレンーブタジエンースチレンブロック共重合体)を基に説明します。スチレンハードセグメントブタジエンソフトセグメントです。スチレンは室温ではガラス状態を取り、ブタジエンゴム状態をとります。誤解を招かない範囲で簡単に言えば、室温下ではスチレンは固まって動きませんが、ブタジエンはガラス状態をとる温度を超えているので、ビヨビヨと動くわけです。

 

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SBS模式図 ガラス状態のスチレン部とゴム状態のブタジエン部

室温の範囲でスチレンが固まって動かない、ブタジエンはビヨビヨしている。そして弾性を発現するような網目構造を構成する。これがまさにSBSが熱可塑性エラストマーとして弾性を発揮する理由であり、ほかの熱可塑性エラストマーもほとんどは同様の機構で弾性を発揮する、といったわけです。

 

最後に

如何だったでしょうか?って文章を最後に載せるブロガーって叩かれると聞きました。

 

みなさんいかがだったでしょうか?

今回の話はニッチではありましたが、熱可塑性エラストマーの仕組みを勉強したいけれど、入りが分からない、という方にはそれなりにまとまった内容にすることが出来たと自己満足しております。インターネッツの海を泳げば、ここで出てきたキーワードをもとに非常にいい文献に出会えると思います*2。今後の勉強の参考にしていただけるとありがたいです。

 

次回、いろいろな熱可塑性エラストマーということで、各論に触れていきたいと思います。分からんけど。

 

質問・意見等ございましたら一旦コメント欄へお願いします。議論はできませんが、対応はさせていただきます。よろしければ読者登録よろしくお願いいたします。

 

では

 

参考文献

熱可塑性エラストマーの現状と将来展望

https://www.jstage.jst.go.jp/article/gomu/83/9/83_9_269/_pdf/-char/ja

熱可塑性エラストマーの構造と物性

https://www.jstage.jst.go.jp/article/gomu1944/57/11/57_11_668/_pdf

TPEの構造と物性

https://www.jstage.jst.go.jp/article/gomu1944/69/9/69_9_589/_pdf/-char/ja

 

*1:ラメラやジャイロイド, シリンダー型など。

*2:できるだけ書籍を当たること、それが厳しいようならば、比較的大手の企業のページや大学の講義資料pdfなどを参考にすることが望ましい。インターネットには誤りを含むページも相応にある。私も間違った表現は使わないように心がけているがもし誤りがあればご指摘いただきたい。