ばけまなび

化学について書きます あとは雑記

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ゲルって何

ブログに書く文章、永遠に完成しない。

どうも、たかおです。

 

今回は私の研究分野の一つである「ゲル」という物質について紹介したいと思います。

 

皆さん、「ゲル」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?

文房具のグリップを見れば「○○ゲル」、化粧品を見れば「ゲルパック」といったように、「ゲル」という言葉そのものは何かと日常に登場していると思います。

この記事では、ゲルって何?という部分に簡単に触れるとともに、ゲルが私たちの日常でどのように役立っているのかを説明したいと思います。そしてゲルについて個人的な意見を最後に軽く述べます。

 

 

「ゲル」とは

ゲルとは何か、ざっくり説明すると「水とかの溶媒を含んだプルプルした物」です。

ゼリーやこんにゃく、ソフトコンタクトレンズを手にしてみてください。みずみずさと弾力を感じると思います。そう感じるものがまさにゲルなのです。

 

専門書にのっている定義によれば次のように書かれています。

「化学的あるいは物理的に架橋された三次元網目構造を持つ高分子で、それが溶媒などによって膨潤した物質」*1

つまり、学術的には、以下の構造を持った物質をゲルと呼ぶことになります。

 

ゲルの構造

 

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ゲルの構造の模式図

上に示してあるのがゲルの構造の模式図です。左の球体が溶媒を含んだゲル、右側がその一部拡大図となっています。高分子の鎖(網目鎖,①)架橋点(②)で結ばれてできた網目の中に溶媒(③)が詰まっている状態、これがゲルのミクロな描像となっているわけです。ゲルの性質はこの構造と関係しており、この三つの条件でゲルがどのような硬さになるか、どれだけ水を含むようになるか、といった”個性”が決まるのです。

 

ゲルの性質

 ゲルに弾力があるのは、この高分子のヒモでできた網目構造のおかげです。この網目構造には、力をかけると元に戻ろうとする性質(復元力)があり、この性質によって、ゲルは特有の弾性を持つようになるのです。また、この網目に水などの溶媒が入り込み*2、保持されることによって、ゲルは潤いをもつようになります。一方でゲルから溶媒が抜けてしまうとカチカチのプラスチックになってしまいます*3。乾燥状態でも溶媒を再び含ませてあげれば、ゲル状態に戻すこともできます。

また、種類にもよりますが、ゲルの中には溶媒の割合が9割に及ぶものもあります。こんなにたくさんの溶媒を含んでいたとしても、ゲルから溶媒は漏れだしたりはしません。これは網目と溶媒との間に分子間相互作用が働いていることによります。*4

 

日常に潜むゲル

先ほども言いましたがゲルは何かと日常にあふれています。そして私たちの生活を陰ながら支えてくれているのです。ここでは身近な例や研究が進められている分野について少し触れていきたいです。*5

食品

こんにゃく、ゼリー、ナタデココ、ところてん....枚挙にいとまがありませんが、これらは全てゲルです。味がどうというよりは、プルプルとした触感、みずみずしさを楽しむものが多いと思いますが、これはゲルだからこそ実現できるものであると言えるでしょう。

 

コンタクトレンズ

ソフトコンタクトレンズも、ゲルの一種です。1971年に実用化されて以来、ゲルは光学材料としても重要な立ち位置を占めているのです。

 

紙おむつ

赤ちゃんが用を足してもおむつから漏れ出てこないーそれは紙おむつの中に入っている樹脂が水分を吸ってゲルとなるからです。ゲルはスポンジと違って、圧力をかけても吸った水分が出てくることはありません。しかもスポンジよりも多くの水分を蓄えることが可能です。紙おむつの性能はまさにゲル(になる樹脂)の性質によって決まってきていると言っても過言ではありません。

 

刺激応答性ゲル

 これは今まさに研究が進んでいる分野なのですが、世の中には温度、pH、電気といった外部環境の微小な変化をうけて、中の溶媒を放出、ないし吸収することで体積が大きく変化するゲルがあります。こういうゲルのことを刺激応答性ゲルと呼びます。この性質は特に医療分野で大きな注目を集めており、人工筋肉やドラッグデリバリーシステムの薬剤キャリアとしての役割などが期待されています。

何故この二つを例に挙げたのか、ざっくり触れたいと思います。

筋肉は脳のシグナルを受けて伸長、縮小を行います。刺激応答性ゲルも、刺激を受ければ、伸縮を起こすことが可能ですから、これを用いて人工筋肉を作ることもできるだろうというのが背景にあります。

薬剤キャリアはどうか。基本的に薬というのは患部にたどり着く前に体中の血管を通ってくる必要があり、その分ロスが生じます。できるならばこのロスを減らしたいというわけです。薬剤を網目の中に含んだゲルが、ある特定の環境(例えばガンなどの患部)に応答して、体積を縮ませ溶媒ごと薬剤を放出する、という仕組みを刺激応答性ゲルを用いて作れば、このロスを減らせるという発想があって研究が現在でも進められています。

 

この刺激応答性ゲルの仕組みについてもいつか解説したいところです....

 

ゲルの未来

私たちの生活にゲルは多く使用されていることを説明してきました。ゲルは将来的にどうなっていくのか、ゲルを研究する一人の人間として簡単に意見を述べたいと思います。

基礎研究は進んでいく

ここまで偉そうにゲルとは何かを述べてきたわけですが、ゲルの性質については未だに完全には解明されていない部分が多いのです。

ゲルの基礎理論が研究し始められてから、はや80年がたとうとしています。しかし研究が進めば進むほど不思議な現象が現れ......そして今もなお、化学だけでなく、物理学や生物学などの多くの分野の研究者がゲルの不思議な特徴の解明に取り組んでいるのです。学問的興味からもいろいろな研究がなされていくことでしょう。

 

応用面では....

現在特に医療方面でのゲルの応用が期待されていますが、これはかなり厳しいと考えています。

「医療方面でのゲルの応用が期待されている」と書きましたが、期待され始めてからすでに30年近く経とうとしてます。そしてその間に出た数々の「夢のゲル」は、使われたという話をほとんど聞きません*6。この話からも分かるように、医療の世界は(いろいろな意味で)シビアであるし、そこにはなかなか入り込めないのです。

医療分野に限らず、「夢のゲル」は今でも多く開発されています*7。本当に面白い性質*8を持ったゲルがたくさん作られているのに、それが実際の生活で生かされないのはもったいないと思います。

私は、ゲルのさらなる応用を目指すならば、色々実際のものを作ると同時に、基礎研究を進め、ゲルの性質をより詳細にかつ普遍的に記述できるようにならなければいけないと考えています。それによって、「夢のゲル」が超えるべき課題を乗り越え、実用化に至ると私は信じています。私は基礎研究をやっている(つもり)なので、少しでも貢献したいところではあります()

  

まとめ

長くなりましたが「ゲル」という物質について紹介しました。

細かいところを書きすぎる癖があるので、できるだけ端折って書いたつもりですが....

抽象的すぎるのと、図が少ないのもあって却って読みにくいかもしれないです。

 

いつか各論はしっかり描きたいところです。

質問や訂正、誤解を招く表現などございましたらコメントお願いします。

 

では

 

 

 

*1:参考文献: 高分子ゲル(共立出版,宮田隆志)

*2:本来この表現は正しくないが、わかりやすさを優先するために採用している

*3:この表現も適切でないかもしれない

*4:細かい説明はかえって混乱を招きそうなのでここでは割愛する

*5:各項目の詳細を知りたい方は1の参考文献を見ていただきたい

*6:これについても理由があるのだがここでは割愛する

*7:高強力ゲル、自己修復性ゲルなど、気に入っているものはいずれブログで取り上げたい

*8:何が面白いのかは人による