ばけまなび

化学について書きます あとは雑記

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【不思議】ダイラタンシーって何?

早く人間並みの仕事ができるようになりたーい。

どうも無能人間たかおです。

 

本日は「ダイラタンシー」という現象がどういう現象か、ということを”ばけまなび流”で説明していこうと思います。

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くそサムネ ちゃんとデザインの勉強しないとまずいと思う。

 

ダイラタンシーとは 

どういう現象か?

百聞は一見に如かずといいますので、こちらの動画をご覧ください。

www.youtube.com

ゆっくり力をかけるとどろどろと流れていきますが、すばやく力をかけると固体のように硬くなる、という現象がおこっています。

このように「加えられる変形の速度が速ければ速いほど粘度が上昇して固体のようになる」現象のことをダイラタンシーと呼んでいます。また、粘度が上昇する(粘稠になる)、を英語にして、学術的には「シアシックニング(Shear Thickening)」と表記することが多いです。こういった性質を示す流体を「ダイラタント流体(シアシックニング流体)」と呼びます*1。こういった性質は粒子を分散させた液(サスペンションとか分散液と呼びます)によく見られます。

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分散液模式図 粒子の大きさは数十nm-数十μmスケール

力のかけ方とかたさの関係

加えられる変形の速度が速ければ速いほど粘度が上昇して固体のようになる、と述べましたが、具体的にどういうことなのか、詳細を見ていきましょう。

水をはじめとした普通の流体*2変形速度(力をかける速さ)が速いほど応力(受ける力)が強くなり(固く感じ)、これらは比例関係にあります。式で書くとこんな感じ。

この比例定数(直線の傾き)が粘度に対応しています。

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普通の流体(ニュートン流体)の応力と変形速度の関係

例えばお風呂につま先からそーっと入っても特に何も力を感じませんが、思いっきり飛び込むと結構痛いですよね。

 

下のグラフに普通の流体とダイラタント流体の変形速度と応力の関係を示しています。普通の流体はこれらが比例関係にあるので直線のグラフになります。

ダイラタント流体では、あるところまではこの比例関係が成り立つのですが、ある一定の変形速度を超えると、粘度=直線の傾きが一気に増大(つまり受ける力が一気に増大)し、一定値に達します。

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ダイラタント流体の変形速度と応力の関係

実験してみよう

ダイラタント流体はお家で簡単に作ることが出来ます。今回は親御さんにも優しいように、手を汚さず、後始末も簡単に済ませられる、ダイラタンシー実験のやり方を紹介します。

透明なポリ袋を用意し、その中に片栗粉を大さじかなんかで適量入れます。そこに水を少しずつ加えていき、袋の上から揉んで混ぜていきます。水の量が片栗粉よりちょっと多いくらい(粉がひたひたに水につかるくらい)加えて改めて揉んでみましょう。いろいろな触り方をしてみた時、返ってくる力の大きさはどのように変化するか調べてみましょう。

 

もし可能であったら、ボウルで同じようにダイラタント流体を作ってみましょう。可能ならばボウルの下に新聞紙などを敷くとよいでしょう。

割り箸をつっこんだり、ビー球を落としたり、グーで殴ったりしてみましょう。力を加えた瞬間に流体の表面はどうなるでしょう。

 

他にはどんなことが起こるでしょうか。実験する人もしない人もいろいろと妄想してみましょう。

 

実際に実験をしてみますと、速いスピードで力を加えると強い反発を感じるということ、そして力を加えた瞬間に表面が乾いたような様子を見ることが出来ると思います。

 

なぜダイラタンシーと呼ぶのか

ダイラタンシーという名前の由来は粉体に関するある原理から来ています。

1885年にレイノルズさんは「砂みたいな粉粒体に力をかけると、粒子間の空隙が増して全体の見かけの体積が膨張するようだ」という原理を見出しました。この原理を「レイノルズの膨張の原理(Reynolds Principle of Dilatancy)」といいます。例えば湿った砂浜なんかをぎゅっと踏み込むと、周りの水が吸い込まれて表面が乾いたように見えますよね。この現象もこの原理で説明できるとされています。また同時に、この膨張が制限されるような状況では、粉の粒が自由に動けないために固体のようになるとされています。

 

元々はこの「粉体の膨張」のことを指してダイラタンシーと呼んでいました。しかし同じように粉粒体を液体に分散させた分散液(今までの例でいえば片栗粉と水を混ぜた液)に勢いよく変形を加えた時も似たような性質(固くなると同時に表面が乾く)が確認されることから、この「分散液(流体)の粘度が高くなる」現象(シアシックニング)もダイラタンシーと呼べるでしょうということで、同じ原理を適用して議論されることがあったという歴史的背景があります。f:id:NeueChemikalie:20201123125739p:plain

余談ですが、日本ではこの二つの現象を、同一の現象として同じ名前で呼ぶことが多いようです。きわめて著名なインターネッツフリー百科事典Wikipediaでも一つの記事でひとまとめで紹介しています。一方で海外では*3ダイラタンシーと、分散液の粘度が高くなる現象(シアシックニング)は別の現象として扱われており、Wikipediaの記事も分かれています。どっちがよいかはさておいて、国によって現象のとらえ方が違うのはなかなか面白いのではないでしょうか。

 

粉体のダイラタンシー   

Dilatancy (granular material) - Wikipedia

Dilatanz (granulare Materie) – Wikipedia

流体のシアシックニング 

Dilatant - Wikipedia

Dilatanz (Fluid) – Wikipedia

 

なぜダイラタンシーと呼ぶのか、まとめると

ダイラタンシーとはもともと粉体に適用される別の現象であったけれども、粘度が上昇する流体にも似た現象がみられているようだったので同じ名前にしたから

ということになります。

 

さいごに

ダイラタンシーとは何か、ということをざっくりと説明してきました。ああこんな感じの現象なんだな~くらいのイメージはつかんでいただけたと期待しております。

 

次回の記事では「なぜダイラタンシー(シアシックニング)が起こるのか?」という原理の部分に踏み込んでいきたいと予定しています。

 

質問ご指摘等はコメントまでお願いいたします。最近仕事で頭がいっぱいで完全に記事に集中しきれていないところがあるため、なんだかストーリーの詰めが甘くなっているんじゃないかと不安を感じています。皆さんと忌憚なき議論ができればと思っております。

 

では。

 

参考文献

*1:インターネッツによくみられる「ダイラタンシー流体」という呼称は(間違っているとは言わないが)一般的な呼称でないことを留意されたい。

*2:ニュートン流体

*3:少なくとも欧米では