スライムは固体?液体?
秋が深まって参りましたが、私の鬱屈とした気分もまた大いに深まっております。
どうもたかおです。
ブログを継続するにあたって、早くもネタがつきかけてはいます。苦し紛れではありますが、今回も、私の専門分野であるゲルと関係している分野から、小ネタを出していきたいと思います。
今回のお題は
「スライム」についてです。
今の世代の子供は大体触ったことがあるのではないでしょうか?手で持つとドロッとしていて、ねばねばまとわりついてくるあの感触が印象的です。
今や自由研究・理科実験の定番、洗濯のりとホウ砂があれば誰でも作れる”おもちゃ”!
大人気YouTuber はじめしゃちょーの代名詞の一つとしても、この「スライム」が挙げられます。
そんなスライムについて、こういった疑問を持つ人は少なからずいるのではないでしょうか?
「スライムって固体なん?液体なん?」
固体って言ったら木とか金属みたいに、カチカチのものをイメージしますし、液体と言われれば、水みたいに流れるものをイメージします。スライムはそのどちらのイメージにも合わない気もしますよね。
このご時世です。ネットで調べれば、いろんな人が答えてくれています。答えを知っている人も、知らない人も、一度試しに検索してみてください。出てきた結果の一番上のページを見れば書いてあります。その結果を軽く要約してみますと、
「スライムは固体と液体の真ん中の物質、中間物質なんです!」
.....
いや、どっちなの...
そう思いません?
結論から申し上げますと、この答えは間違いではありませんが、十分ではありません。スライムは確かに固体と液体の両方の性質を持ちます。しかしながら、これらの性質は「ハーフ&ハーフ」ではないし、どちらかの性質が強めに現れているのです。
ゲル、プラスチックを心から愛する私ではありますが、このスライムも一応専門分野に入っております。ですから、この中途半端を見逃すわけにはいかないのです。
できるだけ専門的な知識は避けたうえで、実のところスライムは何なのか、正しく表記したいと思います。
前置きが長いですが、
それではよろしくお願いいたします。
スライムは「どちらかというと液体」
スライムは固体か液体か、と聞かれると、どっちかというと液体です。
どうしてそう言い切れるのか、それは学問的な「固体と液体の分類」によって、そのように決まっているからです。
固体と液体の分類
本当はちゃんとした分類のやり方があります*1。ここではそれをかみ砕いて説明しましょう。
みなさんが固体か液体か知りたいものを想像してください。そしてそれを、地球の地面においてください。・・・どうなりましたか。
置いて十分に時間がたった時に、
形がそのまま残っていたら固体
形が崩れて流れてしまえば液体
です*2。
例えば金属の塊を地面においても、何もしなければその形は変わることはないでしょう。従って固体です。水の入ったバケツを地面に向かってひっくり返せば、水は地面に飛び散り、流れていってしまうでしょう。従って液体であるといえるのです。
スライムを分類すると...
ではスライムはどうでしょう。スライムを地面に置いてみてください。実際に、スライムを地面に置いた映像などは持っていないので、こちらから根拠を示すことができないのはもどかしいですが、はじめしゃちょーの動画で、彼が手にしたスライムがどうなっていくかを見ていただければ、代替できると思います。
置いた時の形(ないし手に取った瞬間の形状)は、置いて数秒程度ならば形を保っていますが、時間がたつと徐々に流れていってしまいます。先ほどの分類に基づいて考えると、「最初の瞬間だけ固体みたいな性質が現れる液体」ということになりますよね。
これが「固体と液体の両方の性質を持つ」と言われている所以であり、私が「どちらかというと液体」という根拠なのです。
このような物質を、専門用語では「粘弾性液体」と呼びます。
余談: こんなこと知って何の役に立つの?
近年「二位じゃダメなんですか」に代表されるよう*3に、何事も「世の中の役に立つか」という物差しで見られることが多いです。このスライムのことを知って何になるのかということについて、少なからず関心を持たれるかと思います。
このスライムそのものが役に立つわけではありませんが、このスライムがどのような動きをするのかを調べたり、固体みたいな性質がどれだけ続くかな~みたいなことを知ることで、医療材料や衛生用品などの開発に必要なデータ(もしくはそういうデータをとる手法)を得る事ができるかもしれないと考えています。現に企業でもこのスライムを対象とした研究がおこなわれていたりもします*4。
最後に
繰り返しにはなりますが
スライムは
「固体と液体の両方の性質を持った物質だが、どちらかというと液体である。専門用語でいうと粘弾性液体に分類される。」
というのがこの記事の主張です。いかがでしょうか。少しは答えが明確になったのではないかと勝手に満足しております。
相も変わらず長い文章にはなりましたが、少しでも興味を持っていただければ幸いです。感想、コメントなど是非書き込んでください。
では
補足
補足しておくならば、今回示した分類はレオロジーの世界で用いられる分類である。レオロジー業界では①応力緩和測定を行い、緩和剛性率の値が0でない有限値に収束するものを(粘弾性)固体、0に収束するものを(粘弾性)液体 ②クリープ測定を行い、クリープコンプライアンスが一定値に収束するものを(粘弾性)固体、限りなく増加していくものを(粘弾性)液体 と分類している。この分類は、スライムのような、”どっちつかず”な物質に対してよく用いられる。なお①と②の条件は必要十分条件である。今回は②のクリープに基づいた定義を、一般の人に分かるように解釈し、分類の説明に用いた。自重による変形を一定ずり応力に見立て、その時のひずみの変化量が一定値に収束しないことを、流動に例えた。このことを踏まえたうえで、誤解を招く表記があればぜひコメントいただきたい。