ばけまなび

化学について書きます あとは雑記

MENU

スライムの原理 -構造から考えるー

f:id:NeueChemikalie:20191122233418j:plain

相変わらずのクソサムネ もはや意図的


社会はとても不条理に満ち満ちておりますが、せめて科学の世界では楽しく生きていたいと願うばかりです。

どうもたかおです。

以前投稿したスライムに関する記事 第二弾でございます。

第一弾はこちら

neuechemikalie.hatenablog.com

第一弾の記事で、スライムは「固体と液体の両方の性質をもつ」という話に触れました。しかしながら、このような不思議な性質はどうして生まれるのでしょうか。言い換えるなら、スライムはなぜ「ねばねば」とした変わった感触を持つのでしょうか。

 

その理由はスライムの構造を知ることで理解することができます。

今回は、洗濯のりとホウ砂で作られるスライムを題材に

 

・スライムの構造はどのようなものか

・スライムのねばねばの由来

 

の流れで直感的に説明したうえで、

 

・スライムの化学

 

について触れ、具体的な構造に迫りたいと思います。

 

スライムの構造に関する記事はネットに多く存在しています。今更この記事は意味があるのか、と思う方もおられるかもしれません。ですので、ほかの記事よりも、できるだけ正確な内容を書いて差別化していきたいと思います。

 

それではよろしくお願いします。

 

 

スライムの構造

スライムの材料

スライムがどのような構造となっているのかを知るためには、スライムの構成物質がどのようなものかを知る必要があります。以下にスライムの代表的な作り方と材料が掲載されているページを示します。自分で一から説明するのは大変だし。(出典: アズワン

axel.as-1.co.jp

要は、ポリビニルアルコール(PVA)の入った洗濯のりと、ホウ砂を混ぜると、スライムができるということです。この二つ(と水)がスライムを構成する物質となっています。

 

スライムがとる構造のイメージ

ではこのポリビニルアルコール(PVA)とホウ砂がどのようにスライムを形作っているのか見ていきましょう。

下の図のように、PVAをヒモ、ホウ砂を水に溶かすことによって出てきた分子を○で書き表すこととします。 

f:id:NeueChemikalie:20191122221513j:plain

構成物質の模式図

ホウ砂が一定の量加わり、水の中でPVAと混ざりあうと、○成分がPVAのヒモ同士を結び付けて、水を抱えこんだ網目構造を作ります。

 

f:id:NeueChemikalie:20191122221602j:plain

スライムの構造模式図

この構造は非常にゲルと似ているということができます。

ゲルとは何か、以前説明した記事を載せておくので、よろしければご覧ください。 neuechemikalie.hatenablog.com 

スライムのねばねばの由来

スライムがねばねばしている理由は、(第一弾の記事で用いた表記で書くならば)固体と液体の性質の両方を持っているからです。つまりそれぞれの性質がどのように発現するかを考えれば、ねばねばの由来を理解することができます。

 

上記のゲルの記事でも述べたように、「網目構造によって材料に復元力が生じる」ようになります。この構造のおかげでスライムはゲルやゴムのようにびよーんと伸びるようになる、すなわち固体の性質を示すようになるわけです。

 

しかし、ゲルとは違ってスライムは、手で持ったり地面に置いたりすると、ゆっくりと、液体のように流れていきます。このような液体の性質が現れるのはどうしてでしょうか。

 

それは力がかかることで架橋点○の組み換えが起こるからと考えられています。○の点がひもを結び付けているわけですが、この結び付きは外れたり、もう一度くっついたりすることが簡単にできるものだと考えられている、ということです。

 

スライムにゆっくり力をかける(手で持ったり地面に置いたりする)とスライムは流れていきますが、力のかかるスピードが遅いときは、ヒモが引っ張られ、○から離されることで流れていると考えることで説明できます。

 

一方でスライムに勢いよく力をかける(パンチしたり、地面に向けて投げつけたりする)と、スライムはパチンと音を立て、瞬間的に反発を示します。ある程度急に力をかけた瞬間は、○がヒモから外れるスピードが、力のかかるスピードより遅いため、網目が崩れる前に力が全体に伝わるからだと考えることで説明できます。

 

どちらも力をかけるのを止めれば、○は再びヒモを結び付け、新たに網目構造を形成し元の状態に戻ります*1

  

 

スライムの化学

ここまでは、イメージを掴んでもらうための抽象的な説明でした。正直上の説明十分という気もしているのですが、もっと詳細を知りたいという方もいるかもしれないので、化学の視点からスライムの固まる原理を考えていきたいと思います。

構成物質

PVA

PVAは水溶性の高分子の代表例で、構造式はこんな感じです。

 

f:id:NeueChemikalie:20191122221752j:plain

ポリビニルアルコール

ヒドロキシ基(OH)がついている点が特徴です。

 

ホウ砂

ホウ砂は、正式な名前を四ホウ酸ナトリウム十水和物といいます。

 

f:id:NeueChemikalie:20191122182253p:plain

四ホウ酸ナトリウム十水和物 (富士フィルム和光純薬様ページより)


これが水に溶けると、ホウ酸とホウ酸イオンになります。 

f:id:NeueChemikalie:20191122221818j:plain

先ほど「ホウ砂を水に溶かすことによって出てきた分子を○で書き表す」としましたが、電離した二成分が○に対応しているわけです。

 

網目構造

スライムの網目構造を化学式で書くとどうなるか、という点についてですが、実のところ完全には分かっていないというのが現状です*2。ここでは定説と、近年明らかになってきたことを合わせて記述したいと思います。

定説

スライムの構造についてはCasassaなどが提唱した構造が現在に至るまで広く伝わっています*3

彼らは、ホウ砂を溶かしてできるホウ酸イオンがPVAと水素結合することで網目構造を形成しており、これによって架橋点(○)が着脱可能な網目構造を実現していると主張しています。水素結合は共有結合などと比べると比較的緩い結合ですから、引っ張ったりすることによって容易にはがれるということが起こるというのは想像しやすいと思います。

f:id:NeueChemikalie:20191122222010j:plain

スライムの構造模式図 2

なるほど(なるほど?)

 

近年分かってきたこと

しかしあくまで上の構造は仮説です。実際に誰かが目でみて確かめたわけでもないし、その構造を見るのは技術的なハードルが高いのです。

ただ、なす術がないのかといわれるとそうでもありません。近年こうした構造を見る試みがなされ、新たな事実が明らかになっています。例えば以下のpdfにまとめられた研究がそうです。

http://www.op.titech.ac.jp/polymer/lab/sando/Conf_11/2L16.pdf

具体的にどのような実験をやったのかは上のリンクにまとめられているのですが、結論のみを抜粋させていただくと、次のようになります。(カッコ内の記述は原著にはなく、こちらからの補足事項になります)

 

Di-diolモデルから四配位構造(上の模式図のこと)が支配的と予想されるが、~中略~ ホウ素の配位構造はB4(四配位構造)に対してB3(三配位構造)の分率が約5~51倍高いことが判明した。

PVA中においてホウ酸は水素結合等の化学的結合をしていると考えられ、~中略~ 従来、提唱されていたdi-diolモデル(上の模式図のこと)とは異なる新たな三配位構造を有するホウ酸の架橋構造の存在が強く推定される

 

つまり、PVAのヒモを結び付けている○について、上の模式図のようにホウ酸イオンが網目構造を作っていると思われていたけれど、実際はホウ酸の方が網目構造の形成に大きくかかわっているのではないか、ということが最近分かってきた、ということです。となると、上の模式図はもう少し書き換えられる必要が出てくるのかもしれません*4

 

今紹介した研究の本来の目的は新材料を開発することだとは思いますが、こういった類の研究が進むことで、スライムの構造がより詳細に分かるきっかけができると思われます。今後に期待したいところです。

 

私の見解()

蛇足ですが、私の考えを少し書いておきたいと思います。皆さんはどうお考えでしょうか?

  • 網目構造はホウ酸、ホウ酸イオンとPVAの水素結合によって形成されていると考えれば、スライムに起こる現象をおおむね説明することができる。

     

  • ホウ酸イオンの結合様式が水素結合ではなく共有結合である、という説も主流ではないが少なからず存在している。ホウ酸エステルは切れやすい結合だから云々とのこと*5。ホウ酸(ホウ酸イオン)とPVAとの共有結合は、部分的に存在するかもしれないが、架橋構造にほとんど寄与はしないと思われる。共有結合説を掲げる人の多くが主張する「切れやすい共有結合」というものがあったとして、その開裂が力学的な刺激に応答して起こるとは個人的な直感として考え難い。(実際、結合様式は、NMRとかで測定したらわかったりするんですかね?ぜひ意見ください)

 

最後に

いかがだったでしょうか。

知らなったという方も、知ったつもりになっていた方も、スライムについて新しい知見を得るきっかけとなれば幸いです。

分かりにくい表現や、もう少し詳しく聞きたいことがあれば、ぜひコメントに書いていただけるとありがたいです。また、間違い等あればコメントにて指摘していただければ対処いたします。正直個人的に納得する記事になっていないので、いずれ全面的に書き直すかもしれません*6*7

 

以上、コメントくれくれマンと化したたかおでした。

 

では

  

参考資料

最先端からおもちゃまで ~地味に活躍するホウ素(B)~

1303-96-4・四ほう酸ナトリウム十水和物・Sodium Tetraborate Decahydrate・190-01417・194-01415【詳細情報】|【常用試薬・ラボウェア】|試薬-富士フイルム和光純薬

https://kdc.csj.jp/learning/item_183.html

http://www.op.titech.ac.jp/polymer/lab/sando/Conf_11/2L16.pdf

など

 

 

 

*1:この言い回しに引っかかった人へ; 力学応答などのマクロな視点から見れば、という話である

*2:とはいったものの、明らかな間違いというものもあって、スライムに関する記事を書いている人の多くはこの網目構造に関して誤った情報を与えている場合が多い。

*3:Journal of Chemical Education  1986631, 57 原著はフリーアクセスでないので通常は見られないことに注意していただきたい

*4:しかしながらこれらに関する新しい言及も今のところない。

*5:本当にそうなのかは知らない

*6:ねばねばの由来の欄で図を出せなかったことが一番つらい。画力がなさ過ぎた。

*7:これが大学院生の書く文章なのか...と失望する方がいたとしたら、この場で謝罪させていただきたい。世間一般の大学院生はもっとましな文章を書くので、これは平均以下なのだと思っていただければと思います。