高野豆腐ができるメカニズム
THE ALFEEが好き
どうもたかおです。
今回は高野豆腐について取り上げていきたいと思います。
高野豆腐は、乾燥した薄黄色のスポンジのような見た目を持つ、日本固有の食材であり、煮物に使われるなど、かなりポピュラーな材料です。近年では、高野豆腐は健康にいいみたいな情報もあったりします。
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健康に良いといった話題を聞くと、「すごいんだ!明日から食べよう!」という人もいると思いますが、私みたいに「そういえば高野豆腐ってどういう食材なんだ...よくよく考えたら知らんぞ」となる人も少なくないのではないでしょうか。こういった問題を化学の側面から考えてみると、新しい発見があるやもしれません。
こういった背景から、高野豆腐について、
- 高野豆腐ができるメカニズム
- 高野豆腐が健康に及ぼす影響
の二つのトピックについて、先人たちの研究を基に調査を進め、2本の記事にまとめることにしました。今回はその第一弾として、高野豆腐ができるメカニズムについて説明していきたいと思います。
流れとしては
- 高野豆腐の作り方を説明した上で
- 各過程と、分子の動きを相関づけることで高野豆腐ができるメカニズムを説明する
というように説明していきたいと思います。
今回は、本題より予備知識の部分が少し長めになっていますが*1、予備知識とは言っても決して自明な内容でもないと思うので、読んでいて退屈はしないとは思います*2。時間がないという方は、もくじから、まとめの部分に飛ぶことをお勧めします。
何卒よろしくお願いします。
高野豆腐の予備知識
豆腐から高野豆腐ができる
高野豆腐について理解する上で、高野豆腐という食材がどのような特徴をもつのか、その基本知識を改めて押さえておきましょう。知ってる~という方は読み飛ばして次に行かれるといいと思います。
まず大事なことは豆腐から高野豆腐ができるということです。高野豆腐がどのようにできるのか、ということを理解するためには、豆腐がどのようにできているのかをある程度理解できていると分かりやすいです。過去に豆腐がどのような構造をとっているのかをまとめた記事を書きましたので、こちらを読んでから続きを読むことをお勧めします。記事の内容としては、豆腐はたんぱく質と油が集まってできた粒子がひも状につながって、水を含んだネットワーク構造を作っています、ということが書いてあります。
ネットワーク構造が図中でうまく書けていないのですが、 もっと極端に書くとこういう感じ。
豆腐はゲルみたいなもの、高野豆腐はスポンジみたいなもの
豆腐は、押しつぶしてもなかなか水は出てきません。しかし乾燥した高野豆腐は水に入れると水を吸いますし、絞ると水を吐き出します。
こういった性質を基にすれば、豆腐はゲルみたいなもの、高野豆腐はスポンジみたいなものであるという風に区分することができます。 ゲルもスポンジも網目構造があって、それに水を含むことができるのですが、二つの違いとして、網目の穴の大きさが挙げられます。ゲルは顕微鏡などを使っても網目の穴を見ることはできませんが、スポンジは虫眼鏡で見れば見ることができます*3。高野豆腐の網目の穴は豆腐よりも大きく広がっている、という点が重要です。
高野豆腐の作り方
高野豆腐の作り方はざっくり分けて以下の4つの工程に分けられます。
- 豆腐を作る(高野豆腐に適した条件のもの)
- 豆腐を凍結する(-10~-15 oCで数日間)
- 低温で凍らせた豆腐を熟成させる(-1~-3oCで3週間)
- 水を吸いやすくする加工を施した後に乾燥させて完成
高野豆腐用の豆腐は、私たちが普段食べる豆腐よりも硬い物(つまり水分量が比較的少ない豆腐)になるように作られているようです。
まとめると
豆腐作る→ガンガンに凍らせる→0℃くらいで静置
でいろいろやって完成という具合ですね。
詳細についてはこちらのページに非常に詳しく、分かりやすく書いてあるので是非ご覧ください。本当にわかりやすい。
高野豆腐形成のダイナミクス
高野豆腐製造における各過程で、豆腐の中でどのような事が起こっているか、見ていきましょう。下の図を見ながら以下の説明を読んでください*4
凍結
凍結の過程で豆腐の中にある水が凍って氷の粒ができます。氷の結晶が成長し網目を押しのけて、豆腐の「ひも」が密集した構造を形成するようになります。この現象は図中の真ん中の模式図に対応していますが、灰色の部分が、ひもがぎっしりと詰まっている領域を表し、六角形の部分が氷の結晶を表しています。
熟成
何週間もかかる熟成期間で、ある種の化学変化を経て高野豆腐が完成します。順を追って説明します。
①ひも周りの水が少し溶ける
豆腐の温度が-1~-3℃に上がることでヒモ周りの水だけが少し溶けた状態ができます。豆腐のヒモ(の中にある塩とか)が存在することで、その周辺で凝固点降下が起こるために、氷点下でヒモ周りの水が溶けている環境ができるのです。これによってヒモの凝縮状態が実現されます。
②凍結変性がおこる
①で説明したような凝縮状態ができると、ヒモについているたんぱく質が凍結変性を起こします。
以下ではこの凍結変性について詳しく説明します。豆腐のタンパク質分子内の中には、ジスルフィド結合(SーS)とチオール基(-SH)が、10:1くらいの割合で存在しています。凝縮された条件下ではたくさんあるS-S結合を基に、分子間でSH-SS交換反応が進みます。この結果タンパク質同士がつながるーこれが凍結変性です*5。反応式で書くとこのような感じになります*6
図でこのように書くことができます。
凍結変性が起こらなければ、氷が解けたときに網目は凍結前の状態に戻ってしまうわけですが、凍結変性によって、先程氷によって広げられた網目が物理的に固定されることになりより大きな網目の穴がたくさんできます。この状態は、図の右側の模式図に対応しています。網目の中から水を抜く(乾燥する)ことができれば、スポンジのような構造ーすなわち高野豆腐ができるのです。
演習
- 高野豆腐用の豆腐は、私たちが普段食べる豆腐よりも硬い物になるように作られていると書きました。その理由はどうしてでしょうか。また、市販の豆腐(絹ごし、木綿、焼き豆腐 など)を用いて高野豆腐を作ろうとするとどのようなものが出来上がるでしょうか。
- 凍結の過程で豆腐の中にある水が凍って氷の粒ができると書きました。急速で凍結させた場合と緩やかに凍結させた場合では、出来上がる高野豆腐にどのような違いが現れるでしょうか。
正解*7された方には、ばけまなび認定「化学はかせ」の称号*8を差し上げます。ふるってコメント欄に書き込んでください。
まとめ
- 高野豆腐は、豆腐を凍結⇒低温熟成によってできる。
- 凍結の過程で、豆腐の網目内部で氷の結晶ができ、網目が押し広げられ凝縮する。
- 熟成の過程で、凝縮した網目同士が連結してスポンジのような構造をもった高野豆腐ができる。
最後に
いかがだったでしょうか。
普段食べている食材はどのような化学変化を経てできているか、意外と知らないですが、それを知っているかどうかはかなり大きいのではないでしょうか*9と個人的には思っています。食材を化学的に見る楽しさを共有できれば幸いです。
自分で書いておいてなんですが、抽象的な記述や統一化されていない表現があり、分かりにくいかもしれないです。忌憚ない意見をコメント欄に頂けると幸いです。
では
参考文献
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kagakutoseibutsu1962/15/5/15_5_301/_pdf
めっちゃ分かりやすいし面白い。
*1:短くすることを試みて時間がかかっていたが、どうやってもものすごく長い文章になってしまった。今後改善を加えていく予定である
*2:人による
*3:ものすごい簡単に書いたが、少し適切でない部分もあるかもしれない。詳細な説明については以下のpdfを参照いただきたい。 https://www.jps.or.jp/books/gakkaishi/2017/04/72-04_trends.pdf
*4:図が分かりにくい場合は、参考文献に記載したpdfに参考にした模式図があるので、そちらを参考にしていただきたい。絵心なさすぎる。
*5:凍結変性に何週間もかかるのはとても低温だから
*6:反応機構については詳細を記載しない。気になる方はどうか自分で調べていただきたい。
*7:正解が1つとは言ってない
*9:水素水やコラーゲン商法など。具体的にどうとは言わない